子どもたちの外見の悩み:理解と寄り添いのために
脱毛症や治療による副作用など、医学的な理由で外見に変化が生じた子どもたちにとって、自分の見た目への悩みはときに戸惑いをうみ、生活そのものに大きな影響を与えることがあります。
今回は、見た目に症状を持つ子どもたちが感じやすい課題と、周囲ができるサポートについて考えてみましょう。
目次
- 外見の変化がもたらす自信の喪失
- 周囲の過剰な同情による影響
- 学校生活で直面する具体的な困難
- 「普通」とは何か:多様性を認める視点
- 個別のニーズに応じたサポートの重要性
- 子どもたちの声に耳を傾けるために
外見の変化がもたらす自信の喪失
OneDiaryでは髪を失った女性を中心に、その体験談をインタビューし続けていますが、
その中で、思春期に症状をもった方が感じてきたことに、一つ共通点があります。
「なぜ私だけが違うの?」
これが当時を振り返ったときに感じていたという言葉です。
思春期は、自分と他者との違いが気になり始めるとき。
髪の毛が抜けるなど、目に見える変化は、子どもたちの自己イメージに大きな影響を与えます。
インタビューで脱毛症の女性が、当時を振り返りこう語ってくれました。
「髪が抜け始めたとき、自分が壊れていくような気がした。朝起きるのが怖かった。鏡を見るのも怖いときがあった」
見た目の変化は感情に大きく影響を与え、発症直後は多くの不安を抱えがちです。
特に思春期は、子どもたちのアイデンティティを形成する大切な時期にもかかわらず、以下のような心理的ストレスを感じることになります。
- 自己肯定感の低下
- 将来への不安(「これからずっとこのままなの?」)
- 孤独感(「私だけが違う」)
- 社会的な場面での不安や恐怖(「いじめられる?」「就職できる?」「結婚恋愛どうしたらいい?」)
周囲の過剰な同情による影響
その一方で、子どもを心配するが故の負の影響もあります。
「かわいそうに」という言葉は、善意から発せられることが多いものですが、実際には子どもたちを傷つけることがあります。
外見の変化に直面している子どもたちが最も求めているのは、特別扱いされることではなく、一人の人間として尊重されることです。過度な同情や配慮は、逆に子どもたちに「自分は異質である」という感覚を強めてしまうことがあります。
周囲の大人たちがすべきことは:
- 症状を問題として捉えるのではなく、その子を構成する要素の一部として捉える姿勢を示すこと
- 過度に症状に焦点を当てず、子どもの能力や長所に注目すること
- 子どもが自分で決断する機会を奪わないこと
- オープンなコミュニケーションを心がけ、子ども自身が何を望んでいるかを確認すること
言葉の選び方ひとつで、子どもたちの受け止め方は大きく変わります。「大丈夫?」「何かできることある?」と聞くことで、子どもたちに主体性を持たせることができます。
学校生活で直面する具体的な困難
学校生活において、外見の変化を持つ子どもたちは様々な場面で困難に直面します。
体育やプールの授業
体育着に着替えたり、水泳の授業でウィッグを外したりする場面は、多くの子どもたちにとって大きなストレスとなります。
修学旅行や宿泊学習
友達との共同生活では、普段隠している症状が見えてしまう可能性があります。これは特に思春期の子どもたちにとって大きな心配事です。
「修学旅行では、朝早く起きて準備をしていました。誰にも見られたくなかったから」と、ある中学生は語ります。
クラスメイトとの関係
子どもたちは好奇心から質問をすることがあります。「どうして髪の毛がないの?」「その帽子、いつも被ってるの?」といった質問は、悪意なく発せられることが多いものの、当事者の子どもにとっては繰り返し自分の違いを意識させられる瞬間となります。
これらの困難に対処するためには以下のような対応が必要になります。
- 学校側と保護者、医療機関、支援機関の連携
- 状況に応じた合理的配慮の提供(例:着替えの場所の確保、活動参加の柔軟な対応)
- クラス全体への適切な理解促進(当事者の意向を尊重しつつ)
- 教員の理解
「普通」とは何か:多様性を認める視点
「普通」とは何でしょうか?実は、誰もが何らかの悩みや困難を抱えています。外から見えるものもあれば、見えないものもあります。
ある中学校の教師の方からこんなことをお聞きしたことがあります。
「クラスの子どもたち全員に『自分の悩みや苦手なこと』を匿名で書いてもらったことがあります。すると、全員が何かしらの悩みを持っていることが分かりました。外見の悩みがある子も、学習面で苦労している子も、家庭環境に課題を抱える子も、それぞれ異なる困難を抱えているのです。」
外見の変化は、多様な個性や特徴の一つにすぎないのです。
多様性を認める視点は、次のような考え方から始まります:
- 「普通」や「標準」という概念自体を問い直す
- 一人ひとりの違いを尊重し、価値あるものとして捉える
- 「できること」と「苦手なこと」は人それぞれであることを理解する
- 多様性こそが社会の豊かさにつながるという認識
子どもたちに伝えたいのは、「違い」は「欠陥」ではなく、むしろそれぞれの個性や強みとなり得るということです。
個別のニーズに応じたサポートの重要性
同じ症状を持っていても、子どもたちの希望や必要とするサポートは一人ひとり異なります。
例えば、脱毛症の子どもの場合:
- ウィッグを積極的に活用したい子もいれば
- 帽子やスカーフで対応したい子もいる
- あえて何も被らず、自分の状態をオープンにしたい子もいる
重要なのは、子どもたち自身の希望や感じ方を尊重することです。大人が「これが最善だ」と押し付けることは、時に子どもたちの自主性や自己決定権を奪ってしまいます。
とある女性は、親からは隠すために高額なウィッグを購入してもらったが、むしろそれが嫌であったこと、隠していることに罪悪感を感じていたことをお話ししてくれました。高校に入り、ウィッグを着用しないことを選択してからの方が、自分らしくいられ、部活も思い切り楽しめた。クラスメイトも自然に受け入れてくれて堂々と過ごせた、という経験を語ってくれた方もいます。
過度な干渉や保護は、時として子どもたちの自立や成長の機会を奪ってしまうことがあります。適切な距離感を保ちながら見守ることも、重要なサポートの一つです。
子どもたちの声に耳を傾けるために
私たちOne Diaryは、見た目の変化を経験する子どもたちとその家族をサポートするために活動しています。これまでの経験から、最も大切なのは「子どもたちの声に耳を傾けること」だと実感しています。
子どもたちは多くの場合、自分が何を必要としているのか、どうしてほしいのかを知っています。しかし、その気持ちを表現する機会や場所が限られていることがあります。
私たちができることは:
- 安心して話せる場を提供すること
- 子どもたちの声を社会に届けること
- 当事者同士のつながりを促進すること
- 学校や医療機関との橋渡しをすること
One Diaryでは定期的に交流会や相談会を開催し、子どもたちやご家族が安心して話せる場を提供しています。同じ経験を持つ仲間との出会いは、「自分だけじゃない」という安心感をもたらします。
まとめ:光を当てることの大切さ
私たちOne Diaryは「柳を照らす陽の光になりたい」という思いで活動しています。暗闇の中では恐ろしく見えるものも、光が当たれば、それは単なる柳の木であることがわかります。
外見の変化に対する不安や恐れも、正しい知識や理解、そして温かい支援があれば、乗り越えられるものになると信じています。
子どもたちが自分らしく輝き、それぞれの個性を大切にできる社会。それは、見た目の違いだけでなく、あらゆる多様性を認め合える社会でもあるのです。
私たちは今後も、子どもたちの声に耳を傾け、一人ひとりに寄り添いながら、その光を広げていきたいと思います。